佳秀工業では、金属・非金属を含めて年間に約400種類の材質の加工を行っています。技術ブログでは、進化を続ける金属などの新規素材の特徴について解説します。
第1回目は、近年よく耳にするけれど歴史は比較的新しい金属「チタン」についてご紹介します。

〈目次〉
●最近よく聞く「チタン」って、一体どんな金属?
●チタン精錬の歴史は150年
●航空機の発展とともに進むチタン合金の開発
●チタン合金が選ばれる5つの理由
①「錆びない」という高耐食性(耐海水性)
②電気や熱を通しにくい
③強度(引張強度・疲労強度)が優れている
④耐衝撃強度が優れている
⑤生体適合性が優れている
●純チタン4種とチタン合金、64チタンとは
●ますます進化を続けるチタンの未来

最近よく聞く「チタン」って、一体どんな金属?

皆さんは「チタン」という金属をご存知ですか?
チタンは原子番号22の元素で、元素記号は〈Ti〉です。「軽い」「強い」「錆びない」という三大特徴があり、多彩なメリットを持つ最先端の実用金属として航空機やロケット、自動車のエンジン部品、原子力発電所や化学プラント、海洋建造物、建築の屋根材・内外壁・床材、眼鏡のフレーム、ゴルフクラブ、心臓のペースメーカー、人工関節、歯根など、様々な業界に用途と可能性が広がっています。


チタンの「軽さ」を具体的な数値で示すと、純チタンの比重は4.51(チタン合金は4.8)で、銅の約50%、鉄の約60%という軽さです。軽量な素材と言えばアルミが思い浮かぶ人も多いと思いますが、アルミの比重は約2.71です。

つまりアルミはチタンよりも軽い素材と言えます。アルミの方が軽いにも関わらず、私たちの日常の中で「軽量化するならチタン(でも高級)」というイメージがありますが、これは素材の強度に差があるためです。

チタンはアルミよりも強度が高く、その強度は約3倍です。チタンの強さ(比強度の高さ)は非鉄金属の中ではトップクラスです。例えば、自転車や眼鏡などで同じ強度のフレームを作る場合、アルミ製のフレームに比べるとチタンを使用することで素材を薄くすることができます。強度が高いことで使用する材料自体を少なくすることができるので、結果としてアルミよりも軽量化できるのです。

チタン精錬の歴史は150年

チタンは、1795年にドイツで発見され、ギリシア神話の勇敢な巨人「タイタン」にちなんで「チタン」と命名されました。チタンは溶岩鉱物の主成分で、資源的には豊富な地殻成分です。

金属としてもアルミニウム(Al)・鉄(Fe)・マグネシウム(Mg)に次いで4番目に多い資源です。ただ、鉱石として掘り出しても精錬するのに特殊なプラントが必要になるため、チタンを精錬できる国は世界でも限られていることから、レアメタルに分類されます。
ちなみに、チタンの主要な採掘地はオーストラリア大陸やスカンディナヴィア半島、北アメリカ大陸などで、チタン生産の世界のシェア(1997年)は、第1位がオーストラリアで35.9%、第2位がカナダで21.0%、第3位が南アフリアで17.9%。上位3カ国で約75%を占めています。

精錬の歴史としては、まず1910年にハンター法、その後1946年にクロール法で高純度のチタンを作ることに成功。金属として広く用いられるようになったのは1950年代で、元素発見から150年以上というとても長い時間がかかりました。

その上、空気中で溶接すると酸化してしまったり、難削材に分類される硬さゆえに成型などのコストが掛かりすぎたりするために加工が難しく、他の金属で代用できない場合や高性能を求められる場合など、限られた用途でのみ使用される素材でした。

航空機の発展とともに進むチタン合金の開発

世界のチタン需要の約半分は、航空機分野だと言われています。チタンの軽くて強いという特質から、1960年代から主にジェットエンジンの素材として使用されるようになり、機体においてもランディングギア、リーディングエッジ、ボルトなどにチタンが使用されています。

また、近年では航空機の機体の軽量化のため、素材として炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が多く採用されるようになりました。チタンの熱膨張係数はCFRPと近く、腐食しにくいという性質も持っているため、CFRPと相性が良い素材として利用が広がっています。
こうしたチタン合金と航空機の深いつながりから「チタン合金は航空機の発展とともに開発され、適用が拡大してきた」とも言われています。

チタン合金が選ばれる5つの理由

①「錆びない」という高耐食性(耐海水性)

「錆びない」という特徴を考える場合、海水をイメージしてもらうと分かりやすいでしょう。銅・鉄・アルミニウムと比べると、チタンは海水(塩水)にとても強く、白金に匹敵する耐食性を発揮します。
また、理科の実験で使った塩酸や硫酸などの“酸”にも強く、化学的にも溶けにくく、崩れにくい金属です。
この錆びない高耐食性を活かし、LNGプラント、海水淡水化プラント、化学プラント、橋脚などで広く活用されています。

②電気や熱を通しにくい

チタンには他の金属に比べ、電気や熱を通しにくいという特徴があります。そのため、熱交換器や自動車のエンジンバルブ、オートバイのマフラーなど、厳しい環境下で使用する素材として、高く評価されています。
さらに「非磁性」という磁力の影響を受けにくい性質もあり、高速列車リニアモーターカーや病院で検査に使うMRI など非常に強い磁力が発生する装置の部品にも適しています。

③強度(引張強度・疲労強度)が優れている

純チタンの引張強度は270~750MPaで一般的な鉄鋼材料(750MPa程度)と同程度ですが、チタン合金では750~2000 MPaにもなり、比強度(密度当りの強度)は圧倒的に優れています。
また、チタンは引張強度に対して疲労強度がきわめて高い金属です。
疲労比(疲労強度/引張強さ)は0.5~0.6を示します。
(鋼の疲労比は0.2~0.3)

④耐衝撃強度が優れている

工業用純チタンは、常温よりもむしろ低温で靱性(しなやかさ)を有しています。またチタン合金も、鋼であらわれるような低温における急激な脆化現象を示しません。
そのため、地震の多い日本で建築資材としてチタンを使用することで、高層ビル、橋梁などの軽量化と安全性の向上が期待されています。
実際に東京ビックサイトの側壁や浅草寺本堂の屋根材、九州国立博物館の屋根材、福岡ヤフオクドームなどにチタンが使用されています。

⑤生体適合性が優れている

生体適合性に優れ、金属アレルギーが起こりにくいとされるチタンは、眼鏡や腕時計、アクセサリーなどの肌に触れる日用品や宝飾品に加え、インプラント(人工歯根や人工骨)や心臓のペースメーカーなど体の中で使用される装置の素材として医療の分野でも広く活用され、その応用領域を広げています。

純チタン4種とチタン合金、64チタンとは

チタンは大別すると、「純チタン」(JISでは4種類)と「チタン合金」に分けられます。純チタンは1種から4種までの4種類があり、それぞれ鉄(Fe)と酸素(O)の量が違います。

この鉄と酸素は、強度と密接な関係のある元素です。チタンは他の金属と比べ、わずかな不純物でも性質が大きく変化する金属なので、種類ごとに厳密な規格が定められています。

TP270(チタン1種)

チタン1種はいわゆる工業用純チタンで、耐食性に優れているため、化学装置や石油精製装置、工業用装置などに使われています。
TP270Hは熱間圧延、TP270Cは冷間圧延したものです。チタンの中ではやわらかく加工性に優れるため、曲げ加工や深絞り性を重視する場合にも選択される材料です。純チタンの中では強度は弱いですが、最も純度の高いものになります。純チタンは金属組織としてはα組織を持ちます。

TP340(チタン2種)

チタン2種は純チタンとしては最も一般的なもので、強度、溶接性、加工性のバランスが良いとされる材料です。耐食性が必要な場合はもちろん、強度面は1種よりも優れていますので汎用性の高い純チタンと言えます。
軽いにもかかわらず、低炭素鋼にも匹敵する引張強さがあります。

TP480(チタン3種)

チタン3種は純チタンの中でも強度面に力点が置かれた材料で、加工性や溶接性はあまりよくありません。チタンは微量の不純物で性質が大きく変わってしまうことでも知られる材料ですが、特に酸素と水素については硬度を上げる作用を持ちます。ただ水素量が増えすぎると(29ppm以上)、低温で脆性破壊を起こしてしまうため、水素量については厳密な規定があります。

TP550(チタン4種)

チタン4種は工業用純チタンの中では比較的純度の低いタイプで、強度面では最も優れています。反面、加工性は悪くなっていますが、酸化性の腐食環境下では強い耐食性を示します。強度を決定づける酸素が0.40%以下、鉄が0.50%以下と定められています。

64チタン合金

国内では通称で「64チタン」と呼ばれていますが、正式には「JIS60種」「TAP6400」「TAB6400」と呼びます。
「Ti-6Al-4V」は化学成分を明記したもので、質量分率で、アルミ(Al)が6%、バナジウム(V)が4%含まれていることを意味しています。この「Ti-6Al-4V」はチタン合金の中で最も需要が多く、チタン合金の標準系と言っても過言ではありません。
「Ti-6Al-4V」にはα合金を形成するアルミと、β合金を形成するバナジウムが添加されているため、α合金とβ合金の両者の特徴をバランスよく持つため、汎用性に優れています。300℃までの高温強度もあり、加工性、溶接性、靭性のバランスもよく、疲労強度も優れているチタン合金です。

佳秀工業では、ウォータージェット加工によって難削材と言われるような加工が難しい材質の切断加工にも多くの実績を積んでいます。一般材料であるTP340に加え、チタン合金、チタンと異種の金属(鉄やステンレス)を圧着したクラッド鋼などの加工実績も豊富です。

ますます進化を続けるチタンの未来

日本では、建築材料や日用品などのデザインにこだわった製品にチタンを利用する技術開発が進んでいます。日本発の独自素材を使った製品の輸出も活発です。鉄や銅など数千年の歴史をもつ金属と比べ、チタン利用の歴史はまだまだ始まったばかりであると言えます。素材としてのチタン合金の開発とそれに伴う加工技術の開発が進み、今後さらに新しいチタンの用途が広がっていくことでしょう。

〈参考〉
一般財団法人日本チタン協会 http://www.titan-japan.com/technology/properties.html
『航空機生産工学』半田邦夫著|オフィスHANS
「砥石」と「研削・研磨」の総合情報サイト https://www.toishi.info/sozai/ti/index.html

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