佳秀工業では、金属・非金属を含めて年間に約400種類の材質の加工を行っています。技術ブログでは、進化を続ける金属など新規素材の特徴について解説しています。今回は航空機部品の素材としても使用されているジュラルミンについてご紹介します。
●ジュラルミンとは?『特徴』
●ジュラルミンが誕生するまで
・ジュラルミン
・超ジュラルミン
・超々ジュラルミン
●ジュラルミンが使用されている製品
●まとめ
ジュラルミンとは?その特徴
ジュラルミンとはアルミ合金の一種で、JIS規格では「ジュラルミン(A2017)」「超ジュラルミン(A2024)」「超々ジュラルミン(A7075)」の3種類に分類されています。
アルミニウム合金は1000~8000番台までの番号で種類分けされており、2000系である「ジュラルミン」「超ジュラルミン」は主にアルミニウムと銅の合金、7000系の「超々ジュラルミン」はアルミニウムを主体とした亜鉛、マグネシウム、銅からなる合金です。
ジュラルミンの特徴=強度
純アルミニウムは非常に軽く加工性に優れた素材ですが、強度が低いことが弱点です。
上記3つのジュラルミンにはすべて銅が含まれていますが、これは「銅(Cu)を含ませると母材の強度が上がる」という性質を利用したもので、銅の添加により「アルミニウムの軽さや切削加工性」と「鉄鋼材にも匹敵する強度」を兼ね備えた合金となっています。
「ジュラルミン(A2017)」に鉛(Pb)、ビスマス(Bi)を添加するとさらに快削性が向上し、快削ジュラルミンになります。
他の2つに比べて亜鉛とマグネシウムの含有が多い「超々ジュラルミン」は、アルミ合金の中で最高の強度を誇ります。その強度ゆえに難削材の1つに分類されています。
硬度

3種類のジュラルミンの硬度はアルミニウムよりも高くなりますが、ステンレス(187HB)には及びません。
耐食性
ジュラルミンのデメリットとして、硬度を高めるために添加された銅による耐食性の低下があります。そのため用途(腐食環境における使用)によっては十分な防食処理が必要になります。
ステンレスなどの耐食性に優れた材質で挟み込んで使用することも、防食処理の手段の一つです。
比重

ジュラルミンの比重はステンレスの半分以下とかなり軽量です。
溶接性
ジュラルミンの溶接性は他のアルミ合金と比べると劣るため、結合する際はリベットやボルトなどが使用され、溶接の際には抵抗スポット溶接(通常の溶接よりも低温の溶接)が用いられます。ニッケルを添加することで高温に対する強度が増します。
ジュラルミンが誕生するまで
ジュラルミン
ドイツの冶金学者のアルフレート・ヴィルム博士(Alfred Wilm:1869~1937)は薬きょうに使用されている黄銅(真鍮)に変わる素材を発見するために、アルミニウムに様々な成分を添加して真鍮よりも優れた合金を製造する研究を行っていました。
そして1906年9月に銅を添加したアルミニウム合金を製作し、焼き入れ直後の硬度と1日放置してからの硬度を計測した時、時間を空けたものの方が大幅に硬度が向上していることを発見します。このように時間を置くことで硬度が上がる現象のことを「時効硬化」と言います。
ヴィルム博士はそれからも様々な実験や観測を繰り返しながらアルミニウム合金の研究を続け、1909年に「マグネシウムを含むアルミニウム合金の熱処理法」の特許を出願しました。
同年にそのアルミニウム合金は「duralumin(ジュラルミン)」として市場に参入し、第一次世界大戦が始まる1914年には飛行船ツェッペリン(LZ26)の骨組み材に採用されました。
当時、軽金属合金の製造におけるマーケットリーダ会社であったデュレンメタルワークス(Dürener Metallwerk)社のジュラルミンの生産量も、1913年の37トンから3年後の1916年には約19倍の720トンにまで増加しました。
また、飛行船の他に戦闘機や旅客機にもジュラルミンが使用されるようになり、その後も航空機の材料としての需要が高まり続けました。
超ジュラルミン
軽金属飛行機の性能向上競争が進むようになると、ジュラルミンよりも優れたアルミニウム合金を見つけ出そうと各国で開発が進められました。
1916年には米海軍が、フランスで使用されていたツェッペリンの飛行船の墜落現場から見つけた破片をアメリカのアルコア社に送り、その後解析した情報をもとに17Sという引張強度が425MPaの合金を開発し商品化しました。
1928年には同社が17Sよりも引張強度が強い14S(引張強度:485MPa)を開発しました。この時期に開発された超ジュラルミンはケイ素を多く含有しており、「含ケイ素超ジュラルミン」と呼ばれていました。
そして1931年にはケイ素を添加せずマグネシウム(Mg)の添加量を1.5%まで増加させた「24S型ジュラルミン」という合金が発明されました。14Sよりも伸び率に優れていることや、含ケイ素超ジュラルミンと違い室温で十分な強度が得られることから、現在の「超ジュラルミン」もこの24S型超ジュラルミンをベースとして製造されています。
超々ジュラルミン
超ジュラルミンが開発された直後から、世界各国でより高強度な合金の開発が行われました。
同時期に日本では、海軍本部から戦闘機の機能飛躍のために新強力軽合金の開発要請を受け、1935年に住友伸銅所(後の住友金属工業、現UACJ銅管)の五十嵐博士らが米国の24S型ジュラルミンを超える強度を有する合金の開発に着手しました。
当時、多くの高強度金属の問題であった応力腐食割れ(時期割れ)を防ぐ方法を研究し、クロム(Cr)を添加することで対策できることを検証しました。
翌1936年には当時世界で最も強度の高い「超々ジュラルミン」の開発に成功し、同年6月には「鍛練用強力合金」という特許を出願しています。
その後1943年アルコア社によって開発された「75S合金」が、現在使用されている超々ジュラルミン(A7075)の元になっています。
ジュラルミンが使用されている製品



・ジュラルミン
航空宇宙機器、船舶用材料、ネジ類、ギヤ部分、油圧部品
・超ジュラルミン
航空機など各種構造材料、ボルト材、スピンドル
・超々ジュラルミン
航空機の構造材、鉄道車両、スキー板、ストック、金属バットなどのスポーツ用品
軽量で強度もあるジュラルミンは主に航空機などに使用されています。機体の約70%がアルミニウム合金(主にジュラルミン)で製造されていますが、近年では超ジュラルミンや超々ジュラルミン、炭素強化繊維であるCFRPなどが使用されているケースも多いです。
まとめ
ジュラルミンは元々薬きょうの素材を代替開発している際に発見された合金ですが、現在は航空機や鉄道、スマホケース、アタッシュケースなどに使用され、私たちにとって身近なものとなりました。
近年、航空機の素材としては炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の使用が拡大しています。しかし長年にわたり研究が行われてきたアルミニウム合金には蓄積されたデータがあるため、CFRPに比べると設計・製造プロセスは、はるかに容易で信憑性が高いものです。
特に複雑な形状部材や応力の向きが変動する部材など、CFRPでは実現が難しい点を補完する活用方法に注目が集まっています。
さらに近年ではリチウムを添加した「アルミリチウム合金」、チタンを添加した「チタンアルミニウム合金」などが開発され、航空機に採用されています。
今もなお、更に高強度な超々ジュラルミンの開発が続いている「ジュラルミン」。今後も研究の動向に注目したい素材の一つです。
<参考文献>
航空機用アルミニウム合金展伸材の歴史 株式会社UACJ 技術開発研究所 八太 秀周 様 吉田 英雄 様
アルミニウム技術史 -ジュラルミンから超々ジュラルミンまで-(第二回)超ジュラルミンとDC-3 吉田 英雄 様
