佳秀工業では、金属・非金属を含めて年間に約400種類の材質の加工を行っています。技術ブログは、進化を続ける金属などの新規素材の特徴について解説します。

今回は、当社がさまざまな材質を加工している「ウォータージェット加工」の技術について解説します。

〈目次〉
●「ウォータージェット加工」とは
●アクアジェット加工とアブレシブジェット加工
●ウォータージェット加工の歴史
●ウォータージェット加工 7つのメリット
 ① 水に溶ける材質以外は何でも切断可能 
 ② 熱影響をほとんど受けない 
 ③ 複合材・クラッド鋼の加工に有利 
 ④ シム・ライナーなどの薄板の重ね切りが可能
 ⑤ 滑らかな仕上がりで2次加工が不要
 ⑥ カッティングヘッド(ノズル)が傾斜し3次元加工が可能
 ⑦ 希少材の歩留まり向上・リサイクルに有利 
●ウォータージェット加工 3つのデメリット
 ① 水に溶ける材質は加工できない 
 ② レーザー加工よりもコスト高になる場合がある
 ③ 機械加工よりも加工精度が劣る
●ウォータージェット加工の将来性

「ウォータージェット加工」とは

「ウォータージェット加工」とは、専用の高圧ポンプで加圧された水を小径ノズルから噴射し、その水(水流)で切断、切削、穴開けなどを行う加工方法です。

当社ではこのウォータージェット加工によって金属の中でも難削材と言われるチタン合金、非金属の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス、大理石、セラミックス、異種の金属を張り合わせたクラッド鋼(圧着鋼)、大型のアルミなどを加工し、航空機部品、造船部品、車両部品、大型の建築ファサード(装飾パネル)などの加工を行っています。

鉄鋼、金属加工以外の業界においても、建設土木分野ではコンクリートはつり*や切断、掘削、穴開け、溝掘り、剥離など、医療分野ではウォーターメスなどでウォータージェットの活用が広がっています。

*はつり:建設現場などでコンクリートで作られた壁や土間などの構造物を壊したり、形を整えるために表面を削ったりすること。

アクアジェット加工とアブレシブジェット加工

ウォータージェット加工には、水流のみで加工を行う「アクアジェット加工」(ピュアジェット加工とも呼ばれます)とノズルの出口付近に粒子状のガーネット(ざくろ石からなる研磨剤で、サンドブラストガーネットと呼ばれます)を混入することで威力を増した「アブレシブジェット加工(AWJ)」があります。

アクアジェット加工はFRP(プリント基板)、紙、ゴムシートなどの軟質材の加工に向いています。アブレシブジェット加工では超高圧水流により研磨材を加速し、加工面に衝突させて加工を行うため、硬質な金属(チタン合金、ニッケル合金、ジュラルミン、インコネルなど)、複合材料(CFRP、セラミックなど)も加工できるようになります。

一般的にウォータージェット加工の加工性は、噴射圧力によって決まります。噴射圧力が高くなるほど研磨材の速度が増大し、運動エネルギーも高くなります。

当社は現在、アメリカのフロー社製の加工機を4基5基保有しています。そのうち3基4基の加工機の噴射圧力(噴射時)が600MPa(メガパスカル)、1基が414MPaです。
(2020年4月保有台数修正)

専用の高圧ポンプで加圧された水流は、φ0.1~0.3mm前後という髪の毛ほどの穴(ウォーターノズル)からマッハ2~3(音速のほぼ4倍)程度の速さで噴出され、その威力は300mm厚以上の極厚材の切断も可能になるほどです。

2019年3月に導入されたフロー社のウォータージェット加工機

ウォータージェット加工の歴史

古来より「水は方円の器に随(したが)う」と言われ、水は器の形に合わせて変化する柔軟な物の典型でした。しかし一方で「水滴りて石穿(うが)つ」とも言われるように、ひと雫の水でも絶え間なく滴り続けると、やがて固い石に穴を開けるほどの力があることも知られています。

古くからの水力の活用事例として、鉱石の採掘が挙げられます。1852年にアメリカのカリフォルニアで水噴流によって鉱石を破砕し、砂利を採取したという記録があります。1916年にはソ連で石炭採掘への応用実験が行われ、1939年には「水力採炭法」として実用化されました。

その後、高圧水発生装置や耐圧ホースの開発が進み、鉱業においての固体材料の精密切削、土木建設業においての剥離・洗浄、汚染土壌の洗浄などにも応用されるようになりました。

1960年代になると、高速水噴流を固体材料の加工に活用する試みが活発になり、アメリカやイギリスを中心にウォータージェット加工機の開発が進められました。
1970年代初期にはアメリカの大型旅客機メーカー・ボーイング社から技術部門が独立する形でFlow Research(現在のフロー社)が創立され、アブレシブジェットシステムの開発に成功しました。

ウォータージェット加工 7つのメリット

①水に溶ける材質以外は何でも切断可能

ウォータージェット加工の最大のメリットは「多様性」です。
軟質材、硬質材、複合材、金属、非金属、通電材、非通電材などのあらゆる材質の加工が可能です。特に難削材や積層材といった加工難度の高い機能材や新規素材の加工に適しています。
また、炭酸ガスレーザー加工機では加工が難しいとされる反射率の高い素材(アルミ合金、銅、真鍮など)やレーザーが不得意な厚みのある素材でも、ウォータージェットであれば問題なく加工できます。
(近年ではファイバーレーザー加工機など反射率の高い金属も加工できる設備が登場しています)

②熱影響をほとんど受けない

レーザー加工やプラズマ加工、ガス溶断では被加工物が高温となり熱による反りや歪みが発生するため、細長い形状や切断面同士が密接した加工には不向きです。
ウォータージェット加工では加工部に熱が加わらないので、熱による歪み、素材の変質(変色や硬化)がありません。そのため細長い形状、穴が密集したスクリーン加工(打ち抜きができない厚み)なども可能です。

また、熱を加えずに加工を行うために加工後の歪みや反りなどの加工応力(残留応力)を最小限に留めることができます。
さらに発熱による化学変化が起こらないため、有毒ガスの発生も抑えられ安全な作業が可能になります。

③複合材・クラッド鋼の加工に有利

材料の高硬度化・高付加価値化・異素材結合による複合化が進む近年だからこそ注目されている技術がウォータージェット加工です。
ウォータージェット加工は材質を選ばないため、合金やクラッド鋼などの加工においては特に強みを発揮します。

④シム・ライナーなどの薄板の重ね切りが可能

シム・ライナーなどで使用されるステンレスや真鍮の極薄材(板厚0.01mm)などは、コシがないため取り扱いが難しく、また熱影響を受けやすいために加工が難しい素材です。
ウォータージェットで加工する際は、シム・ライナーを数枚重ねた状態で穴開け・切断などの加工が可能です。重ね切りをすることができるため、数が多い場合は特にコストメリットを発揮します。

⑤滑らかな仕上がりで2次加工が不要

例えば板厚100mmほどのSS材に角穴を開ける加工を行う場合、従来は①ガス溶断で粗切断+②角穴を削り仕上げるという2工程を経て仕上げていましたが、ウォータージェット加工であれば1工程のみで仕上げることができます。
切断面の「表面粗さ」は機械加工と同程度で、公差も±0.1mmで仕上がります。

⑥カッティングヘッド(ノズル)が傾斜し3次元加工が可能

被加工物とノズルは非接触で、任意の点(原点)から切断をスタートし任意の点でストップできるため、自由な曲線の切断、複雑な切り抜き加工なども可能です。
当社の保有する加工機ではカッティングヘッドが±60度まで傾斜するため、1工程で高精度の3次元加工が可能となります。こうした傾斜切断(ベベル切断)は溶接開先として活用されるケースが多くなっています。

⑦希少材の歩留まり向上・リサイクルに有利

ウォータージェット加工では熱影響がなく切り幅(加工しろ)も細いため、製品間隔を詰めて加工でき、材料歩留まりが向上します。
またウォータージェット加工と機械加工(切削加工)を比較した場合、ウォータージェット加工では、スクラップ(切断後に残る端材)を固体(塊)で回収できます。一方の機械加工では削り出して精度を出すため、スクラップは細かい切り粉状になります。
そのリサイクル率の高さのため、希少で高額な素材の場合にウォータージェット加工を活用するケースが増えています。

ウォータージェット加工 3つのデメリット

①水に溶ける材質は加工できない

ほぼどんな材質でも加工できるウォータージェットですが、水に濡れて溶けてしまうような材質は加工できません。
また、薄いガラスは水圧で割れてしまう恐れがあるため、ある程度の厚みが必要です。

②レーザー加工よりもコスト高になる場合がある

ウォータージェット加工では消耗材として使用する研磨剤(ガーネット)が高価であるため、レーザー加工に比べてコストが高くなります。
そのため、レーザーや鋸盤で容易に切断できる素材はウォータージェット加工には不向きです。

従来の加工では切断できない難削材や複合材を切断する場合には、ウォータージェットの方が割安になります。また一般的な加工でも、多品種少量、単品生産の場合は、金型が不要なウォータージェット加工の方が安価になるケースもあります。

③機械加工よりも加工精度が劣る

超精密加工に関して機械加工と比較すると、その加工精度は劣ります。しかし、薄物の難削材であれば機械加工と比較してもスピーディーに加工でき、精度を出すことができます。
超精密加工の場合でも、難削材を加工する場合はウォータージェットの特性を活かして機械加工の前工程(1次加工)として使用されることが多く、トータル的なコストダウンを実現することができます。

ウォータージェット加工の将来性

「軽量で高強度」という機能を併せ持つ先端・先進材料の需要が高まっている航空宇宙産業では、従来の工法では加工が困難な難削材(CFRP、セラミックス、ハニカム構造材など)、高脆材、または加工熱によって性能劣化を起こしやすい材料の使用が拡大しています。

こういった材質の加工に最適な方法として注目されているのが「ウォータージェット加工」です。まだまだ歴史の浅い加工方法ですが、進化し続ける「ものづくり」の世界において 今後ますます不可欠な技術となっていくことでしょう。

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〈参考〉
高圧力の科学と技術 Vol.2,no.3(1993)
多軸力情報に着目した、ウォータージェット加工の加工状態認識に関する基礎研究
画像提供(一部):フロージャパン様 https://www.flowwaterjet.jp/