佳秀工業では、金属・非金属を含めて年間に約400種類の材質の加工を行っています。技術ブログでは、進化を続ける金属などの新規素材の特徴について解説します。
第3回目は、航空機に使用される構造材料として注目を集める「ハニカム構造」についてご紹介します。
〈目次〉
●ハニカム・ハニカム構造とは
●ハニカム構造の最大の特徴は衝撃吸収性
●ハニカム構造の航空機への利用
●ハニカム構造材料を使用する7つのメリット
① 軽量性
② 高剛性
③ 疲労特性
④ 表面平滑性
⑤ 衝撃吸収性
⑥ 断熱性
⑦ 消音特性
●まとめ
ハニカム・ハニカム構造とは

「ハニカム構造」とは英語で「Honeycomb:ハチの巣」という意味で、正六角形または正六角柱を隙間なく並べた構造のことです。
確かにハチの巣は六角形からできています。

平面を隙間なく敷き詰めることを「平面充填(へいめんじゅうてん)」と言います。
全て同じ形状で平面充填が可能なのは、三角形・四角形・六角形しかないことが、古代ギリシアの数学者・ピタゴラスによって証明されています。
この三角形・四角形・六角形の図形のうち、外周の長さが等しい場合、その面積が最も大きくなるのは正六角形です。つまり、同じ量の蜜蝋で最も多くのハチミツを保存できるのは、正六角形を組み合わせた巣であるということになります。生き物たちは自然界の法則を巧みに利用して生きているのです。
ハニカム構造の最大の特徴は衝撃吸収性
平面充填が可能な三角形・四角形・六角形の図形のうち、「強度」の観点で考えると三角形が最も優れています。
ですが、一方向から力(衝撃)を受けた場合の「力の分散」という観点で考えると、衝撃を五方向に分散できそれぞれの面が受ける力が小さくなる六角形が最も衝撃吸収性に優れていると言えます。

ハニカム構造は軽くて強度があり、また音や衝撃を吸収できて断熱効果もあるという理由から、現在では飛行機の翼や駅のホームにある落下防止ドア、新幹線、建造物などの構造材料としても幅広く利用されています。
ハニカム構造の航空機への利用

構造材料として誕生した「ハニカムコア(六角形の立体で充填された構造体)」ですが、更なる軽量化を目的として1945年頃にイギリスでクラフト紙を使ったペーパーハニカムが開発され、機体の舵面(尾翼構造)に用いられました。航空機の材料として紙が使用されたとは驚きですね。
1949年にはアメリカの軍用機にも構造体として採用されました。
名称として、ハチの巣状の構造材料そのものは「ハニカム」「ハニカムコア」などと呼ばれ、ハニカムを芯材として表面板で挟み込んだ構造材料は「ハニカムサンドイッチ構造」「サンドイッチパネル」「ハニカムパネル」と呼ばれます。
「ハニカムサンドイッチ構造」の表面板には一般的にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)に代表される繊維強化複合材(プリプレグ)が使用されます。
原子レベルにおいても、炭素同士が六角形に結合すると、あらゆる原子結合で最も強いことがわかっています。全体がその六角形の結合からなる新素材・カーボンナノチューブは、アルミニウムの約半分の軽さ、鋼鉄の100倍の強度、ダイヤモンドの2倍の硬さを持ち、実用化されれば地球と宇宙ステーションを結ぶ軌道エレベーターにも利用される見込みです。
ハニカム構造材料を使用する7つのメリット
①軽量性
ハニカムサンドイッチ構造は単位重量当たりの強度・剛性において他の構造より優れるため軽量化が可能です。
②高剛性
ハニカムサンドイッチ構造はI(アイ)型ビームの集合体であると言えます。
パネル厚みが十分なため全体がたわみにくくなり、補強パネルでは得られない高い剛性を得ることができます。
③疲労特性
ハニカムサンドイッチ構造は表面板とハニカムが接着剤で一体化されているため、溶接や機械接合(ボルトやリベット等)によるビルトアップ構造に比べ、応力集中がなく疲労特性に優れています。
さらに音響疲労特性にも優れています。
④表面平滑性
ハニカムサンドイッチ構造は接着による一体構造のため、リベット止めによる凹凸や成形・組立による歪みの発生がなく、優れた表面平滑性を得ることができます。
外観上も美しいというメリットがあります。
⑤衝撃吸収性
ハニカムサンドイッチ構造は厚み方向に圧縮荷重を受けた場合、ハニカムが潰れてほぼ一定の荷重を保ちながら座屈していくため、優れた衝撃エネルギー吸収特性を示します。
⑥断熱性
ハニカムサンドイッチ構造には体積にして95%以上とも言われる空気層が内在し、その空気層が一つ一つ独立した小さな無数のセルとなって空気の対流を防ぐため、断熱性に優れています。
⑦消音特性
ハニカムサンドイッチパネルの片側の平面板に小さな孔を開けることで、音響エネルギーがハニカム内部の空気で共鳴され、消音効果が得られます。
孔のサイズ、ハニカムのセルサイズおよびパネルの厚み等の条件によって消音される音の周波数は異なります。
まとめ

ハニカムに使用する材質として金属ではアルミハニカムが代表的です。
非金属ではペーパーハニカム、ガラスFRPハニカム、アラミド(繊維強化)ハニカム、各種プラスチックハニカムなどがあります。
なかでもアラミド(繊維強化)ハニカムは複合材表面板との組み合わせで、アルミハニカムに取って替わるように航空機での使用が拡大しています。
ハニカムサンドイッチ構造では表面板、芯材それぞれの材質を変えることで得られる効果も無限に広がります。CFRPやAFRPといった軽くて強い先進複合材料と組み合わせることで、機能面・性能面において限りない可能性を秘めた構造材料と言えるでしょう。