佳秀工業では、金属・非金属を含めて年間に約400種類の材質の加工を行っています。『金属・素材研究所』のコーナーでは、進化を続ける金属などの新規素材の特徴について解説します。

第5回目は、高融点金属でかつ加工性の高さも兼ね備えた性質であるため、金属に添加して使用されることの多い「モリブデン」についてご紹介します。

〈目次〉
●高融点金属「モリブデン」とは
●モリブデンの歴史
●モリブデンの用途
●しなりを持つ「クロムモリブデン鋼」
●モリブデンとタングステンの違い
●まとめ

高融点金属「モリブデン」とは

皆さんは「モリブデン」という金属をご存知でしょうか。
見た目は銀白色で、アルミやステンレスに似ています。
元素記号は〈Mo〉、 原子番号は42、クロム属の金属です。

モリブデンはレアメタルの一種で、遷移元素に分類されます。
比重は10.28、融点は2620℃、沸点は4650℃(参考値)とされています。
他の金属にはない非常に高い融点と沸点が特徴です。金属の中で5番目に融点が高く、「高融点金属」の一種に分類されます。高融点金属とは、融点がプラチナ(1772°C)より高い金属を指します。
タングステン(3387℃)、タンタル(2996℃)、ニオブ(2468℃)なども高融点金属に属し、超高温雰囲気でも使用できるこれらの素材はガスタービンの表面塗布剤から高速航空機の耐熱シールドまで、現在多くの産業でその重要性が高まっています。

なかでもモリブデンの特性としては、高温での強さが他の高融点金属よりも強く、熱膨張率が低く、高温の環境下でも形状安定性がきわめて高い点が挙げられます。

〈モリブデンの特徴〉
・高い融点を持つ(約2600℃)
・高温での機械的強度が高い
・電気抵抗率が高い(5.7×10-8Ω・m IACS%で30)

モリブデンの歴史

古代ギリシア・ローマの時代より、鉛のような輝きを持つ軟らかい鉱物は“molybdos(モリブドス)” と呼ばれていました。
“molybdos” という言葉はもともと「鉛の鉱石」を意味し、グラファイト(黒鉛)や方鉛鉱を指していましたが、方鉛鉱と外観が似ている輝水鉛鉱(モリブデンの原鉱石)も“molybdos” から派生し“molybdina(モリブダイナ)” と呼ばれるようになりました。

1778年にスウェーデンの薬剤師であるC.シェーレが輝水鉛鉱(硫化モリブデン)を硝酸と反応させて三酸化モリブデン(MoO3)を分離することに成功し、輝水鉛鉱が鉛ではないことを証明しました。
続いて1781年にシェーレの友人でスウェーデンの化学者であるP.イェルムが酸化モリブデンを石炭で還元し単体分離することに成功し、金属の「モリブデン」が誕生しました。「モリブデン」と命名されたのもこの時です。

モリブデンを含む合金鋼は19世紀末から工業的に広く使用されるようになり、ステンレス鋼、耐熱鋼などの開発を促しました。

現在のモリブデンの主要な生産国は中国、米国、チリ、ペルー、メキシコ、およびヨーロッパ諸国です。

モリブデンの用途

モリブデンは単体での加工が非常に困難なため、鋼材の添加材として使用されることが多い金属です。その用途のほとんどはステンレス鋼、鉄鋼への添加材料で、三酸化モリブデン(MoO3)の形で添加すると、高温下での強度や硬度が向上し、鋼材の粘り強さも上がることが知られています。

モリブデンを添加した鋼材は高速度鋼、耐熱鋼、強靭鋼、工具鋼などに広く使用されており、特に日本はこの鉄鋼・特殊鋼分野の製造において世界的に大きなシェアを占めています。

〈鉄鋼・特殊鋼分野〉
モリブデンを炭素鋼に 0.1%〜10%の範囲で合金添加すると高温下での強度を改善する効果があり、靱性の向上に有効です。
モリブデン鋼(板、棒、線・ワイヤー)をはじめ、各種の特殊鋼(ステンレス鋼、構造用合金鋼、高張力鋼、合金工具鋼、鋳鍛鋼、スーパーアロイ等)には合金添加成分として少量が使用されます。

・熱間で使用される部品
・精度が要求される部品
・熱伝導効率が求められる放熱用途部品

高温への耐性や加工の優位性を活かし、 自動車、航空機、ロケットのエンジンやタービン、高温炉の加熱チャンバー、レフレクター、保護管、半導体整流素子用の基板、ガラス溶融用の電極、電子レンジ用のマグネトロン用部品、照明用部品など、様々な用途で使用されています。

新しい耐熱材料(超高温材料)の開発の中で、高温・高強度であり、
さらに脆性の克服を実現するための添加素材としても注目されています

〈化学分野〉
各種モリブデン酸塩類として、触媒、薬品類、顔料、皮革の染料として使用されています。
触媒としては、重油脱硫触媒や自動車排気ガス触媒、脱硝触媒等の公害防止分野において重要な役割を果たしています。


モリブデンを含む無機薬品として、
防錆塗料用に塩基性モリブデン酸亜鉛(Mo:25~30%)、
着色顔料としてモリブデート赤(Mo:9%)があります



〈潤滑油〉
硫化モリブデンは摩擦係数が小さいことから、工業機械や内燃機関の潤滑油用添加剤として使用されています。

しなりを持つ「クロムモリブデン鋼」

鉄にクロムとモリブデンを添加した合金鋼を「クロムモリブデン鋼(略してクロモリ)」と言います。クロムモリブデン鋼は、炭素を0.1~0.5%、クロムを0.9~1.2%、モリブデンを0.15~0.45%の範囲で含むものと規定されています。

「クロムモリブデン鋼」は硬さと靱性に優れ、耐摩耗性も高い素材で、めがねレンチ、スパナなどの工具によく使用されるほか、自動車や航空機の部品、自転車のフレームにも使われています。

モリブデンとタングステンの違い

モリブデンと似た性質を持つ素材にタングステンがあります。
モリブデンとタングステンは、共に「レアメタル」の一種で、高融点、高比重、また熱膨張性が低く、熱伝導効率が良いという似通った特徴を持っています。
チタンやニッケル、アルミニウムなどの金属と比べ耐久性に優れていることから「超合金」と呼ばれることもあります。これらの特徴を活かし、様々な形に加工され、あらゆる機械や化学製品の材料として活躍しています。

モリブデンとタングステンの大きな違いは、「加工のしやすさ」にあります。
モリブデンはステンレス相当の加工性を持っており、複雑な加工が比較的容易な金属です。一方タングステンは非常に硬度が高く、カーボン・コバルトと混合するとダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ超硬合金になります。その優れた硬さゆえに、自在に加工することが難しいという一面があります。

熱への耐性という点ではタングステンの方が強く、高温を発する現場に必要な部品を作る際には、熱に強いタングステンが用いられるケースが多くなっています。

まとめ

日本におけるモリブデンの需要の8割は鉄鋼・特殊鋼分野であり、主に焼成鉱 (三酸化モリブデン)、フェロモリブデンの形態で輸入されています。
一方、世界ではモリブデン生産の8割以上(中国を除く)が銅生産の副産物として生産されるため、銅の需給・市況により生産量が左右されることもあるようです。

現在は日本においても、モリブデンの国内生産の試みや、超高温域でも強靭さを失わない新しいモリブデン合金の開発なども進められています。
モリブデンは今後の素材開発においても重要な役割を果たす素材と言えそうです。

〈参考〉
タングステン・モリブデン工業会 http://www.jtmia.com/
東芝マテリアル〈タングステン・モリブデン〉
https://www.toshiba-tmat.co.jp/pdf/product/4_tu.pdf

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