佳秀工業では、金属・非金属を含めて年間に約400種類の材質の加工を行っています。技術ブログでは、進化を続ける金属など新規素材の特徴について解説しています。今回はステンレス鋼の種類について紹介します!
●ステンレス鋼の分類と主な材質
・マルテンサイト系(クロムステンレス)
・フェライト系(クロムステンレス)
・オーステナイト系(クロム・ニッケルステンレス)
・オーステナイト・フェライト系:二相系(クロム・ニッケルステンレス)
・析出硬化系(クロム・ニッケルステンレス)
●まとめ
ステンレス鋼の分類と主な材質
ステンレス鋼は耐食性が高い(錆びにくい)上に強度や加工性に優れているため、フライパンなどの台所用品、腕時計などの日常生活で使用するものから、貯水槽や屋根材などの工業用品にも使用されています。
ステンレス鋼の種類は100種以上あると言われていますが、大きく5つの系統に分類することができます。
①マルテンサイト系(クロムステンレス)
焼入れ性を向上させるためにクロムを約11.5%~18%含有しており、基本的鋼種は13%含有するとされ、SUS403とSUS410などです。
他のステンレス鋼よりも炭素の含有量が多いため、耐摩耗性に優れている一方で耐食性はやや低くなり、僅かに磁性を持っているのが特徴です。
同系ステンレス鋼の中でも、クロムが18%含まれるSUS440は最も硬度が優れているため、高強度が求められるベアリング(軸受)などに使用されています。
②フェライト系(クロムステンレス)
代表的な鋼材はクロムを18%程度含んだSUS430です。
この素材は炭素含有量が少ないため熱処理によって硬化することがなく、焼きなましを行うことで軟質化し延性が向上します。
そのため、成形加工性に優れており加工がしやすいという特徴を持っています。
一方で、低温によって脆性破壊が起こる恐れがあることに加えて、300℃~550℃の高温に一定時間保持されると起こる脆化(457℃脆化)や、600℃~800℃で起こる脆性現象(α脆化)が認められているため、使用環境の温度には注意が必要になります。
フェライト系ステンレス鋼は、最も一般的に使用されているオーステナイト系ステンレス鋼(後述)と比べると耐食性は及ばないまでも、線膨張係数が低く成形加工性に優れていることや、溶接性が比較的良好であることから一般耐食用として使用されています。
従来よりも、炭素・窒素の含有量を極めて低減させ、炭化物安定元素(チタン・ニオブなど)を添加させたものを「高純度フェライト系ステンレス鋼(LowC.Nフェライト系ステンレス鋼)」と呼びます。
耐食性や延性に優れる高純度フェライト系ステンレス鋼は、先ほどの低温脆性や経年損傷の一種である応力腐食割れなどに有効とされ、現在でも研究が進んでいます。
③オーステナイト系(クロム・ニッケルステンレス)
オーステナイト系ステンレス鋼では18%のクロムの他に8%のニッケルが含まれているSUS304が標準的な鋼種です。
この素材は、熱処理を行うことで硬化するマルテンサイト系ステンレス鋼と違い、熱処理では軟化し、冷間加工だけで硬化する特徴を持っています。
1000℃前後の高温度下でも高い耐酸化性を保持し、低温下でも衝撃値の劣化が少なく、ステンレス鋼の中でもひときわ高い耐食性を持っているなどの特徴から、耐熱鋼・低温用材料としても使用されています。
加えて延性、低温靭性も高く加工性に優れているため、家庭用品や建築、化学工業、自動車部品、原子力発電、LNGプラントなどに幅広く使用されています。
そのためオーステナイト系ステンレス鋼の製造量は、全ステンレス鋼の約60%を占めています。
SUS304に銅を添加し冷間加工性を向上させた素材がSUSXM7です。
常温での機械加工性はオーステナイト系ステンレス鋼の中でもトップクラスを誇り、従来の加工中に発生していた「欠け」や「割れ」を防ぐことができるようになりました。
④オーステナイト・フェライト系:二相系(クロム・ニッケルステンレス)
オーステナイト相とフェライト相の2つの金属組織(二相)を持っているため「二相系ステンレス鋼」とも呼ばれ、代表鋼種にSUS329J1があります。
フェライト系ステンレスは靭性が低いため薄板でしか取り扱うことができませんが、二相ステンレス鋼にすることでオーステナイト相の高い靭性を活かして厚板での使用可能になるなど、それぞれの弱点を互いの特性で補うことができます。
二相系ステンレス鋼の最大の特徴は、海中や湿潤環境でも使用できるほど耐食性に優れていることです。
そのため海水復水器、熱交換器、排煙脱硫装置といった公害防止機器や化学プラント用装置などに多く使用されています。
⑤析出(せきしゅつ)硬化系(クロム・ニッケルステンレス)
JIS規格ではSUS630、SUS631、SUS631J1の3つが鋼種に定められています。
この鋼材は母相にチタン、アルミ、銅、モリブデンなどの特定の元素を添加して析出させることで素材を人工的に硬化させたものです。
素材の種類によって「マルテンサイト系」「オーステナイト系」「セミオーステナイト系」「二相系」の4種に分けられます。
母相に固溶化熱処理(S処理)の後にT処理、R処理、C処理などのマルテン化処理を行い、析出硬化処理*(時効硬化熱処理/H処理)を行うことで従来よりも高強度・高硬度になります。
※析出硬化処理:600番台のステンレスや一部のアルミニウム、ベリリウム銅、マルエージング鋼などに使用される。
まとめ
耐食性に優れ加工も行いやすいステンレス鋼は、工業用だけでなく、一般用品にも幅広く使用る鋼材の1つです。
そのため生産量は年々増加傾向にあり、2018年の世界生産量は過去最高の5072万9000トンとなりました。
ほぼ100%リサイクルが可能な「環境にも優しい金属」として、ステンレス鋼はこれからも生産量を伸ばしていくことでしょう。
佳秀工業ではステンレス鋼を含めた様々な素材の加工に対応しています。
