佳秀工業では、金属・非金属を含めて年間に約400種類の材質の加工を行っています。技術ブログでは、進化を続ける金属など新規素材の特徴について解説しています。
今回は近年生産量が増加している炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を製造する上で欠かせない、強化材の1つである「ガラス繊維(グラスファイバー )」について紹介していきます。
ガラス繊維(グラスファイバー)の特徴
ガラス繊維は、溶かしたガラスを引き伸ばし繊維状にしたもので、初めて工業用として生産された無機繊維です。
主な特徴として、寸法安定性の良さや、引張強度と弾性率が共に高いことが上げられます。加えて良好な電気絶縁性と電波透過性、またその種類(後述)ごとに異なる得意分野をもち、多方面に渡って優れた能力を発揮しています。
ガラス繊維は主原料の約80%が家庭などから集められたリサイクルガラスを使用しています。
高い強度と安定性を持ちながら他の素材よりも安価で手に入るため、工業用にとどまらず、織物や紙製品などの日用品にも幅広く使用されている非常に汎用性の高い素材です。
ガラス繊維(グラスファイバー )の種類
ガラス繊維には様々な種類がありますが、その中でも特に使用されている繊維をご紹介します。
Eガラス繊維(無アルカリガラス )
Eガラス繊維には、ガラスを作るために欠かせないアルカリ成分がほとんど含まれていません。溶融温度を下げる働きのあるアルカリ成分が少なくその分耐熱性に優れたホウ素を使用しているため、熱膨張率が低く急激な温度変化に対応することができます。
しかし全くアルカリ成分が含まれていない訳ではなく、JIS規格では1%以下含ませなければならないと定義されています。
比較的安価であることや高い電気絶縁性から、FRP(繊維強化プラスチック)として他のガラス繊維よりも幅広く使用されています。
Sガラス繊維
平均的に能力値の高いEガラス繊維ですが、Sガラス繊維はそれよりも更に高強度、高弾性を求めて開発製造されました。
弾性を向上させるアルミナ(AL2O3)という元素がEガラスよりも含まれているため、引張弾性で約20%、引張強度では約35%も向上しています。また、融点の高いアルミナに加えて酸化マグネシウムも多く含まれているため耐熱性が向上し熱膨張係数が小さくなっています。
溶融する温度も相対的に高くなることから加工コストが上がり、Eガラス繊維の数倍の価格で取引されています。
Cガラス繊維(含アルカリガラス )
屋外などで使用した際に、酸化しないように開発製造されたのがCガラスです。
多く含まれているアルカリ成分は溶融温度を下げるだけでなく、酸に対する耐性を向上させる働きがあります。そのためCガラス繊維が主に耐酸性能力を必要とする環境に適しています。
ECRガラス繊維
Eガラスを溶融する時に発生するホウ素(B2O3)やフッ素分子(F2)の揮発は人体や環境に被害を及ぼすことが懸念されていました。このECRガラス繊維は揮発させないために上記2成分を含有しない素材として開発製造されました。
環境にも優しい素材ですが、酸化チタンの使用によって価格が上がりあまり広く普及していません。
しかし、その能力の高さから、今後市場がEガラス繊維からECRガラス繊維へ変わっていくのではないかと期待される素材です。
ARガラス繊維
ARガラス繊維にはジルコニア(ZrO2)という機械的強度、破壊靭性が高い成分が多く含まれています。この成分は高い耐アルカリ性を持っているため、ガラス繊維の対アルカリ性能力を向上させることができます。
従来のガラス繊維ではコンクリートと併用することが不可能でしたが、この素材の開発によりコンクリート建造物の修復剤として使用することが可能になりました。
ガラス繊維(グラスファイバー )の用途

様々な性質を持ったガラス繊維は、それぞれの適正に合わせた素材へと加工されます。
・ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)
塩化ビニル樹脂やポリプロピレン樹脂などは熱に弱い素材(熱可塑性樹脂)ですが、ガラス繊維と複合させることで、熱や衝撃に強くすることができます。
自動車部品や電気絶縁部品、機械の潤滑部など、幅広く使用されています。
・ガラス繊維強化熱硬化性プラスチック(FRP)
ガラス繊維が使用された製品の中で、最もポピュラーな素材です。
優れた電気絶縁性、耐熱性、寸法安定性に優れているため、電子機器などの高い精度が求められる分野にも多く使用されています。
またFRPに炭素を添加した「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」は自動車や航空機などに使用されており、現代の機械製造に欠かせない素材の1つです。
・ガラス繊維強化セメント板(GRC)
本来コンクリートやセメントなどのアルカリ性に弱いガラス繊維ですが、対アルカリ性繊維(ARガラス繊維)が開発され、新たにガラス繊維によって強化されたセメント素材が開発されました。
今までセメントや鉄筋を大量に使用することで出していた強度をガラス繊維で補うことで、コンクリート製品の軽量化にも繋がっています。
・ガラスペーパー
ガラス繊維を複合した紙は一般の紙よりも耐水性が高いため、壁紙や床材、フィルタなどに使用されています。
・織物
ガラス繊維で製造された織物(シート)は有機繊維で作られたものよりも強度が高く、縦横に引っ張ってもほぼ伸びることはありません。また耐水性にも富んでいるので、ドームの屋根や道路補強用クロスなど、屋外で工業用としても使用されています。
ガラス繊維と健康
1975年よりも以前は、アスベスト(石綿)という天然の繊維状鉱物が住宅の保温・防音素材として壁などに使用されていました。アスベストが壁の外側に塗布してある場合はその極めて細かい粒子が空気中に舞い、呼吸で体内に取り込むことで肺繊維症(じん肺)や肺がんになる可能性がありました。ガラス繊維も同じようような用途で使用されることがありますが、まず、肺に入り込みにくい大きさ(太さ)であること、入ったとしても非晶質繊維のため肺の奥まで到達しにくいこと、仮に到達した場合でも体液に溶け込みやすいため素早く対外へ排出されることから、ガラス繊維の発がん性は極めて低く評価されています。
国際ガン研究機構でも、ガラス繊維の発がん性リスクはお茶やカフェインと同等との見解を出しており、健康被害がほぼない素材と言えます。
様々な場面で活躍しているガラス繊維(グラスファイバー )

平成から普及し始めた「スマートフォン」ですが、その名の通り発売当初に比べて軽く、薄型になってきています。あれだけ薄型でありながら壊れにくいのは、小型機器の筐体にガラス繊維が使用されているからです。
他にも「傘・テープ・シャベル・網戸」などなど、私たちの身の回りにある多くの物の中でガラス繊維は活躍しています。
ガラス繊維は強さと安全性を兼ね備えながらも、原料にリサイクルガラスを使用しているため環境に優しい素材ですね。様々な分野の製品に使用されていて、私たちの生活を支えてくれるガラス繊維は、これからもなくてはならない存在でしょう。
