佳秀工業では、金属・非金属を含めて年間に約400種類の材質の加工を行っています。技術ブログでは、進化を続ける金属など新規素材の特徴について解説しています。今回は溶接構造用圧延鋼材(SM材)について紹介します。

目次
●溶接構造用圧延鋼材(SM材)について
●特徴
・JIS規格
・シャルピー吸収エネルギー
・引張強度
●SM材についての歴史
●おわりに

溶接構造用圧延鋼材(SM材)について

「溶接構造用圧延鋼材(通称:SM材)」は直訳すると「Rolled steel for welded structures」ですが、SWはJIS規格では「硬鋼線(ワイヤ)」と登録されていたことや、元々造船用として開発された鋼材であることから「Steel」と「Marine」の頭文字を取り「SM材」と呼ばれるようになりました。

かつてはSM材のほとんどが船体に使用されていましたが、現代では産業機械やパイプライン、発電プラントなど社会インフラ関連にも欠かせない素材として使用されています。

特徴

SM材には11種類あり、それらはA・B・Cで区分されています。
SS材と添加成分は似ていますが、SS材はリムド鋼、SM材はキルド鋼(セミキルド鋼含む)からできています。
キルド鋼は製造過程で「脱酸(溶鋼に含まれている酸素を抜く作業)」を行うことにより、溶鋼内の気泡を除去し、低温下でも強度を保つことができるようにした鋼材です。そのため、船体に使用するのに適切な素材だと言えます。
脱酸されたキルド鋼は炭酸ガスの放出がなく静かに凝固していくため、「死んだように静かな鋼」「酸素を殺す」=「killed」という意味で名付けられました。

●JIS規格

化学成分であるP(リン)、S(硫黄)は低温脆性を引き起こす原因になるため、JIS規格にて鋼材内の含有量が制限されています。
SS材はP、Sのみに対し、SM材は高い溶接性を確保する必要があるため上記2つの成分に加え、C(カーボン)Si(ケイ素)Mn(マンガン)の含有量が細かく規定されています。

●シャルピー吸収エネルギー

シャルピー衝撃試験における吸収エネルギー(シャルピー衝撃値・衝撃保証値)とは、受けた衝撃を吸収するねばり(材質の靭性)を表す項目です。
前述したSM材におけるA・B・Cはこの項目によって分類されており、値が高いほどねばりが強くなります。各素材のシャルピー吸収エネルギー(J)はA「規定なし」、B「27以上」、C「47以上」となっているため、同じSM400でもA(SM400A)やB(SM400B)より、C(SM400C)の方が高い靭性を持っていることになります。

*シャルピー衝撃試験
ハンマーで試験片を打撃して破壊することで、破壊に用いられたエネルギーと試験片の靭性(ねばり)を求める試験。
フランスの技術者:ジョルジュ・オーギュスタン・アルベール・シャルピー(Georges Augustin Albert Charpy)が考案した。

●引張強度

引張強度は普通鋼と同等の400MPa程度のものから、最大で720MPaと高張力鋼の中でも高い部類になるものがあります。

SM材についての歴史

過去、船を製造する際には、鋼材を重ね合わせた部分に釘のようなもの(リベット)を打つことで部材を固定する「リベット構造」が主に用いられてきました。
しかし、第2次世界大戦時にアメリカが溶接構造を採用したことで「船体の軽量化」「資源の削減」「作業スピードの向上」が格段に進んだことから、世界各国でもSM材を採用した溶接構造が多く使用されるようになりました。

日本でも戦後の1947年から、アメリカとの造船溶接技術の格差を埋めるため学会や関連業界など様々な場で議論・研究が行われるようになります。そのわずか15年後の1962年には、当時世界一の大きさを誇る日章丸3世(13.9万t)を製造するまでとなり、その技術力は世界水準を突破しました。
船の建造量に関しても、1956年に当時世界一だったイギリスを抜き、2000年頃まで建造量世界1位を走り続けていました。

*造船峻工量(2017年外務省統計)
1位:中国(2516.0万t)  2位:韓国(2327.2万t)  3位:日本(1300.5万t)  4位:フィリピン(186.5万t)  5位:台湾(74.9万t)

おわりに

普通鋼から一般建築に特化したSS材や溶接構造に特化したSM材が開発されたように、鋼は日々進化していきます。
これからも私たちの生活を支えてくれている鋼に注目していきたいですね。