佳秀工業では、金属・非金属を含めて年間に約400種類の材質の加工を行っています。『金属・素材研究所』のコーナーでは、進化を続ける金属など新規素材の特徴について解説しています。今回は溶接構造用圧延鋼材(SM材)に続き、建築構造用圧延鋼材(SN材)について紹介します。

目次
●建築構造用圧延鋼材(SN材)とは
●SN材の種類
●SN材の特徴
・エネルギー吸収性
・シャルピー吸収エネルギー
・耐ラメラテア性能
・溶接性
●まとめ

建築構造用圧延鋼材(SN材)とは

建築構造用圧延鋼材(SN材)は地震大国である日本において、建物内外における私たちの安全性を確保するために特に重要になる鋼材です。

1978年に発生した宮城県沖地震(M7.4)で、ブロック塀の倒壊や建物の崩壊が甚大な被害を及ぼしたことを受け、1981年に大地震時の人命確保を目的とした、「新耐震設計基準」が建設基準法に基づいて施行されました。

この改定により、旧耐震では震度5の揺れまで倒壊に耐えることができる構造を基準としていましたが、新耐震では震度6~7でも倒壊・崩壊しない耐震性が求められるようになりました。
その後1994年、地震での過大な引張負荷による溶接部脆性破壊や開裂問題など、建築鋼材特有の溶接性を重要視し、従来使用していたSS材やSM材よりも高い耐震性を持った「建築構造用圧延鋼材(通称:SN材)」がJIS規格化されました。

SN材には、「降伏点または耐力・降伏比の上限、シャルピー吸収エネルギー値、板厚方向の絞り値」(後述)などが厳しく規定されており、いずれの項目も耐震性を見るための重要な指標となっています。

SN材の種類

SN材は「SN400A・B・C」と「SN490B・C」の5種類に分類されています。
SN400Aは溶接性が保証されていないため、溶接を使用しないまたは軽微である小梁(こばり)や間柱などの二次部材などに使用されています。

B種は建築用鋼材として最も使用されている素材です。
塑性変形能力*と溶接性を確保しているため、一般建築物の主要構造材として使用されています。

C種はB種の特性に加え、耐ラメラテア性能(後述)を持った鋼材で、ダイヤフラム *などの建築において最も重要な部分に使用されています。

※ダイヤフラム :建築物の柱と梁の接合によって柱(角型導管)が潰れないように内側または外側に付けられる分厚い鋼板
※塑性変形能力:変形(伸び)することで弾性範囲を超えた圧力に対応することができる能力

SN材の特徴

●エネルギー吸収性

SN材(A種を除く)には降伏点*・降伏比*が規定されており、これらはSN材がエネルギーを受けた時、弾性領域から塑性領域を突破し破断(崩壊)するまでの応力を表します。
降伏点・降伏比を規定する理由は、地震などで受けたエネルギーは塑性変形することで吸収するのが最も有効だと定義されているからです。
エネルギーを受けても変形する領域がない(塑性変形能力がない)鋼材は、弾性領域を突破すると破断してしまいます。
「降伏点または耐力・降伏比」が規定されている鋼材はSN材の中でもB種C種のみで、どちらも降伏比の上限は80%以下と定められています。
これは、SS材やSM材と比べ、弾性領域を超えたのちも破壊に至るまでに余裕を持っていることを示しています。
そのため建築物の安全を得るには、この塑性変形の能力が必要不可欠となります

※降伏点:鋼材が弾性限界を越えて降伏(塑性)し始める時の応力
※降伏比:「降伏点÷引張り強さ」で低いほど降伏後の伸び域が大きくなる

●シャルピー吸収エネルギー

シャルピー衝撃試験における吸収エネルギー(シャルピー衝撃値・衝撃保証値)とは、受けた衝撃を吸収するねばり(材質の靭性)を表す項目です。
SN材はA・B・C種に区分され、A種「規格なし」B種「27J以上」C種「47J以上」と規定されています。
そのため、要求される安全性に応じて使用する鋼材を選択することができます。

●耐ラメラテア性能

ラメラテアとは接合した鋼板箇所に引張応力がかかった時に、板厚方向に剥離破壊(割れ・亀裂)が発生する現象です。
この問題に対して靭性や溶接性、加工性を低下させる硫黄の含有量に上限を設け、超音波深傷試験(UT検査)や引張試験にクリアしたものだけがSN材C種として規定されています。この鋼材は耐ラメラテア性能に優れ、板厚方向の割れなどが発生しない特徴を持っています。

●溶接性

SN材のB種・C種には靭性・溶接性を低下させるリンと、成分元素の濃度分布を不均一にする働きのある硫黄の含有量に対して厳しく規定しているため、高い溶接性を持っています。

まとめ

私たちが今、建物の中で安心して生活ができているのは、このSN材があるおかげと言えるかもしれません。
現代の建築分野において、この建築構造用圧延鋼材(SN材)はなくてはならない鋼材の一つです。