現代においてレーザーは「20世紀最大の発明」と評されています。
それまでのガス溶断加工から高出力レーザーによる高速切断加工への移り変わりは、大量生産・大量消費のバブル経済を支えてきました。
今回の技術ブログではレーザー加工機シリーズ前編として、レーザーの歴史からご紹介していきます。

古代-中世:始まりは古代ギリシャ

レーザーとは「高エネルギーの光」です。
人類による光の研究の始まりは古代ギリシャまで遡ります。

古代の人々にとって太陽や火の光は神そのものか、あるいは神からの恵みであり、「光」が何であるかを推測すること自体が冒涜であると考える人もいました。

そんな中、古代ギリシャの哲学者であるアリストテレス(古希:Ἀριστοτέλης B.C.384~322)は著書「霊魂論*(第2巻 7章:視覚と色)」にて「”光”は透明である。空気などの透明なものが明るい状態が光である(意訳)」と記しています。

*霊魂論(デ・アニマ):命・心・霊魂について書かれた全3巻からなるアリストテレスの著作

現代科学における視覚の仕組み【図】
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アリストテレスの考える視覚の仕組み【図】
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もちろん、この解釈は現代科学とは異なるものですが、知的探究全般を指した哲学を「自然学」「論理学」「生物学」「政治学」など様々に分類しその礎を築いたことから”万学の祖”と呼ばれたアリストテレスは、著書と共に多くの哲学者の儀表としてその没後も高く評価されました。

そのため約2,000年後にアイザック・ニュートンが光のスペクトルを発見するまで「光=透明なものが明るい状態」とするアリストテレスの考えが光の研究において基本とされることになります。

一方、同時代に著書「視学」でアリストテレスの内送理論*とは逆の外送理論*を支持したのは”幾何学の父”エウクレイデス(古希:Εὐκλείδης、英:Euclid BC 330-275ごろ)でした。
古代アレクサンドリア(エジプト)で数学・天文学者として活躍した彼は、鏡像についての数学的理論から光が直進・反射する性質を持っていることを発見し、反射の法則や光の道筋などを書物にまとめています。(諸説あり*)

この「反射視学」は歴史上初めて光についての研究が記された本だと言われています。

ユークリッドが考える視覚の仕組み【図】
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*内送理論:物体の表面から剥がれた薄い膜(エイドラ)が目に流入・取り込むことで対象を知覚するという考え
      (エイドラは収縮するため山など大きなものも目に入れることが可能とした)
      現代の解釈は光を受け取った信号で視覚を得るため内送理論に分類される

*外送理論:目から光線のようなもの(視線)が放出され、物体に到達して情報を得ることで知覚するという考え
      ただし、色については外部から内部に流入するという内送理論のような考えを使用していた

*視学(オプティカ):BC300ごろ書かれたとされるエウクレイデス(ユークリッド)による視覚に関する書

*反射視学(カトプトリカ):複数人との合作だったともアレクサンドリアのテオン(ローマ帝国の天文・数学・哲学者)作とも言われている


著書「光学論」の表紙には水で足が屈折している様子や光が反射する様子などが描かれている

光の研究に大きな転機が訪れるのはおよそ1300年後、中世イスラーム圏の光学・数学・天文学者イブン・アル=ハイサム(アラビア:ابن الهيثم, 英:Ibn al-Haitham 965-1040)によってでした。

1011年から1021年にかけて執筆された全7巻の「光学の書」には、ハイサム自身による多くの実験を基にした光の屈折や物が見える正しい仕組みなどが世界で初めて記されています。

彼の死後ラテン語やイタリア語などに翻訳されヨーロッパにも広く流布した「光学の書」は、それまでの経験的事実による考察ではなく実験結果から数学的に帰納する方法でまとめられた全く新しいものでした。

その手法は彼以降の科学者とその研究、そして近代科学に大きな影響と発展をもたらしたことから”近代光学の父”と呼ばれ、歴史上の偉大な科学者の一人に挙げられる人物です。

他にも透明度によって光の屈折率が変わることやほぼ正確な眼球の構造解明、カメラ・オブスクラ(ピンホールカメラ)の製作など、ハイサムの研究成果には現代でも活用されているものを見ることができます。

イブン・アル=ハイサムの考える視覚の仕組み【図】
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ハイサムが「光学の書」を執筆し始めた1011年の日本は平安時代、ちょうど源氏物語が書かれたころです。

同じ11世紀に遠く離れた場所では直進、反射、屈折などの光の性質、光がどう眼球に作用して見えているのかといった「視覚」までが科学的に解明されていたとは驚きですね。

次回は17世紀から19世紀にかけて科学者たちを翻弄した光の本質についての研究をご紹介します。
光は波(波動)か、物体(粒子)か、ニュートンからアインシュタインまで約200年もの間続いた議論の結果はどうなったのでしょうか。

<参考文献>
・小熊正久『視覚媒体としての光とその経験』
・甲子雅代『イブン・アル=ハイサム『光についての論述』』
・持田辰郎『アルハゼンとケプラーにおける視覚像』
・THE OPTICS OF IBN AL-HAYTHAM BOOKS I—III On Direct Vision by A. I. SABRA(1989)